CHONO

女性を美しく見せる、物語あるファブリック

繊細かつ確かな技術力を持つ日本の職人たちとオリジナルファブリックを生み出し、女性が身に纏った時の美しさまでもがすべて計算された服を作るCHONO。デザイナー・中園わたるのバランス感覚は、自身のものづくりに対する信念と職人へのリスペクト、そして日常生活で服を着る人の視点を冷静に併せ持つ。

DESIGNER'S PROFILE :

中園 わたる Wataru Nakazono

福岡県出身、東京モード学園デザイン学科卒。在学中より、コレクションブランド「Mon tsuki/モンツキ」のデザイナー長澤武弘氏・藤川慎太郎氏に師事。2014-15A/Wシーズンより、日本の産地でのモノづくりに特化したファブリック ウィメンズブランド「CHONO/チョノ」をスタート。2018年度 Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門入賞。

シルクスクリーンのおもしろさに気付いたデザイナー新人時代

ーファッションデザイナーになろうと思ったきっかけを教えて下さい。

中学生の頃から洋服が好きで古着屋さんに通ってはヴィンテージの服を買ったりしていたんですが、「服を着ることで毎日が楽しくなるんだ」ということを実感しました。その後学生のファッションショーを見る機会があり、自分も作れるのではと思ったことがきっかけで、福岡から上京してファッションの専門学校に進学しました。

学校ではレベルの高い人たちも多くて、ある日デザイン画の授業で自分の描いた絵を笑われて悔しい思いをして。それから必死で絵の勉強をして、デザイナーになるためにブランドに弟子入りして現場でも学び始めました。

ー独立に至ったのはなぜですか?

「そろそろ自分のものづくりがしたいな」と思い始めていたからです。20代後半の頃で、その時はパターンの勉強をやり直したり、クロッキー(絵)の勉強をしたり、試行錯誤したんですがどれもしっくり来なくて。でも、ある日美術館でやっていたシルクスクリーン(孔版印刷の技法の一つ)のワークショップに行った時に「これだ!」と思ったんです。シルクスクリーンの楽しさに気付いて、自分のアトリエまで作り、仕事の傍ら制作作業を行うようになりました。

CHONOは「生地ありき」のブランド

ーそれが、テキスタイルが強みのCHONOの原点になっているんですね。なぜ、テキスタイルを究めようと?

流行り廃りを越えて何十年も愛されるものを残していきたいと思っていて、僕にとってそれを可能にするのが、テキスタイルにこだわることだと感じたんです。

CHONOは、生地がメインのブランドです。デザインだけでなく、作るプロセスにおいても。僕の場合は何を差し置いても「生地ありき」なんです。

例えばMarimekko(マリメッコ)には長い歴史がある中で「ウニッコ」という柄が代表作として残って継承されている。そんな風にファブリックは、ワンシーズンのたった半年の命じゃなくて、ブランドを作る看板のように何度もリバイバルさせてずっと愛されるような作り方ができるんです。

簡単にコピー商品が出回ってしまう世の中でもあります。でも、だからこそ、一つの生地にどれだけの想いを乗せるかが僕の中では大きい。一つの柄を作るにも、何度もバランスをチェックしたり、柄と手法が本当にマッチしているのか?と職人さんと一緒に色々なパターンを試したり。

日本の職人たちと協働するのは、もっと良いものを作りたいから

ー日本製にこだわるのはなぜですか?

僕は日本人として生まれ、日本で育ち、日本語で意思疎通が出来る。日本でものづくりをするなら、僕一人ではなく、僕の服作りに関わる日本の職人たちの想いも乗せて完成させたいという気持ちがありました。服が出来上がるまでの過程は一人では完結しません。若かった僕らの色々な疑問にも答えてくれ、僕たちが持っていない力を注いでくれる、そんな職人たちと「協働」することでもっと良いものを作っていきたいという気持ちがあります。

ーテキスタイルはどのようなプロセスで作っていますか?

素材を見ながら、自分のアイデアを職人さんと共に実現させていく感覚です。特殊なことが出来る職人さんなので、その技術を生かして、定番でベーシックというよりは意匠性があるものを作っています。例えば花柄を作るにしても、職人に「 金属を溶かしたような見え方、凹凸感で花柄を表現したい」 などイメージを伝えテストを繰り返します。

ー生地作りにおいてCHONOの独自性はどんな点にあると思われますか?

まずは、全て自分たちで作っているので、他にはないオリジナリティのある柄という点です。そして、服はあくまで人が着るためのものなので、飾って美しいものではなく人が着て美しく見えることを大事にしている点です。
つまり「今は持ってないけど、鏡に合わせた時には確実に美しく馴染んで見える服」を作りたいと思ってます。 展示会などでは、その答え合わせをしているような感覚です。

それから、CHONOのファブリックは装飾的には手が込んでいるのに家庭で洗濯できるという点もユニークかもしれません。せっかく買って頂けるのであれば、出来るだけ出番が多い服にしたいという想いが強いので、この点はこだわっています。

CHONOの服に付けられる"Descriptive Label"には、製作に関わるメンバーの名前が記載される

服を着る楽しさを感じるファブリック

ーお客様やファンの方と近い距離でのコミュニケーションを心掛けているのはなぜですか?

CHONOは元々、卸売りをしないブランドだったんです。今はインターネットもSNSもあって、福岡から東京までもたった1時間半程で行けます。だから、出来るだけお客様とは直接コミュニケーションを取って、対話しながら服のストーリーを伝えたいと思っています。

誰でも経験があると思うんですが、思い出のある服は、トレンドが終わって着なくなっても捨てられなかったりしますよね。残り続ける服は、感情に訴え掛ける服。そんな風に愛されるにはどうしたらいいかをいつも考えていますが、そのために服のストーリーを伝えることも大切だと思っています。

ファンの方には、ファブリックが素敵だから、オシャレする事がより好きになった、という方も多いんです。CHONOのファブリックを知ったことで服を着る楽しさを感じてくれる人がいるのがとても嬉しいです。

「職人の技術を守る」姿勢はChristian Diorへのリスペクトから

ー影響を受けたデザイナーはいますか?

クリスチャン・ディオールです。彼がブランドを立ち上げて最初に着手したことは「技術を守る」こと。貧富の差が激しかった時代に、彼は自分のブランドを守ることだけでなく、職人を雇いお給料を払い続けることで彼らの技術も生活も守ろうとした。その覚悟に何よりも衝撃を受けましたし、すごくリスペクトしています。これが本当のファッションブランドだなと。「作ってくれる人の技術があるからこそ、ブランドが存在する」ということを忘れてはいけない。

ー今後の展望を聞かせてください。

ものづくりへの姿勢はそのままに、色々な国の反応を見たいという気持ちがあるので、海外展開もしていきます。海外はチャレンジする場でもあり、挫折する場でもあると思う。様々な意見を聞いてヒントをもらって、愛される服って何だろう?ということを考えながらものづくりをしていきたいです。

また、異業種とのコラボレーションに挑戦していきたいと思っています。ファブリックは服のみでなく、クッションやランチョンマット、カーテンや器まで、1つの柄で衣食住すべてに関わるものに生かされるので、その可能性を広げていきたいです。

Interview / Text: Naoto Kon
Edit : Aika Seto