ーブランド設立までの経緯を教えて頂けますか?
文化服装学院を卒業後、ヨウジヤマモトなど数社で5年程パターンやデザインに関わりました。それから2012年に自身のブランドを立ち上げ、今年で6年目になります。
昔から漠然とあった表現欲と理想的なスタイルが、企業で働く中、自分の中でどんどん具体的になっていきました。それはマス向けではないかもしれないけど、きっと一定数、喜んでくれる人、共感してくれる人はいると思っていました。それをとにかく表現してみたい、届けたいということはいつも考えていたので、なるべく早く独立したいとは思っていましたね。そんな中で資金と技術、経験値が自分の中での最低限のラインに達したと感じたのが調度今から6年前で、独立に至りました。
ー若くして独立されることに不安などはありませんでしたか?
性格的に期が熟すのを待っていてもきりがないと思うタイプで、表現したいという欲求に素直に、まずは行動することが重要だと考えていましたね。考えるより、行動しろという感じです。自分のブランドを運営する上での未熟さや、困難さはやりながら乗り越えていこうと思っていました。傷を負いながらのほうが早く成長できるというか(笑)
そうした性格は、自分の敬愛するカルチャーや人々に影響を受けているかもしれませんね。ロックミュージシャンのLou Reed(ルー・リード)とか、パンクミュージシャンで「ロック史上もっとも見事な変質者」とも呼ばれるGG Allin(ジージーアリン)など。皆考えるよりもまず行動というタイプです。
ー「jean genie & hungry freaks, daddy」は特徴的なブランド名ですが、由来は何ですか?
「jean genie(ジーン・ジニー)」は生き様やスタンスにシンパシーを感じる、フランスの小説家Jean Genet(ジャン・ジュネ)の英語での表記から。「hungry freaks, daddy」はアメリカのロックミュージシャン、フランク・ザッパの曲名から取りました。自分の好きなもの、好きな世界観を組み合わせたら長くなってしまいました(笑)
ー1度見たら忘れないインパクトがあります(笑)続いて、ブランドコンセプトを教えて頂けますか?
4つの言葉をブランドのコンセプトとして用いています。1つめは、"RAW"(未加工や未成熟、生っぽさ)、2つ目は、"OBSCURE"(あいまいさ、はっきりしない、不明瞭)、3つ目は"ROMANTIC"(ロマンティック)、そして最後に"PROGRESSIVE"(革新的、進歩的、新しいもの)です。
ブランドを始めた頃はそれほど細かなコンセプトはありませんでしたが、この数年自分の好きなスタイルを追い求めて行く中で、これらの4つの要素が組み合わさっていることが大事であるということを意識し、言葉にしています。
ーコレクションを制作する上で考えていることは何ですか?
理想的な創作というのは、「内容を形式に結実させる」ということだと思っています。デザインソースやコンセプトなど、内容ばかりにフォーカスしすぎて、頭でっかちにならないように、それをどうやってスタイル(形式)に落とし込むか、ということにも同じくらい重点を置いています。
内容と形式を相反するものとして二元化させるではなく、あくまで一体化させるということを常に考えていますね。そのためにも論理的になりすぎず、本能的・感覚的に制作するということをとても大事にしています。
ー具体的にはどのようにしてコレクションを構成していくのでしょうか?
先ほどの4つのブランドコンセプトを体現するために、「相反」「拡張」「断片」の3つを意識して制作しています。コレクション制作ではまず日常の中で色々見たり、体験したりした物事の中から、自分の好奇心や興味に引っ掛かるものを集めます。ここでは自分の好奇心にどれくらい素直になれるかが重要で、ギャラリーで出会ったアート作品や、日常の会話、映画、写真集、小説、インスタグラムなど見境なくどんどんかき集めてストックしていきます。
その中から特に表現したいモチーフをいくつかピックアップし、そのモチーフに相反するものを組み合わせたり、思いきりそのモチーフを拡張させたりと色々と実験をしていきます。モチーフをそのまま使うことはしません。また敢えて完璧を目指さず、断片的な表現として留めることで、強さや抜け感、自由の表現に繋がると考えています。これだけ洋服が溢れている世界で新たに服を作るということは、新しい価値や新鮮な感動を生み出すことが、絶対的な生命線であり、ある意味でブランドとしての使命だと思っています。
ーとても強い使命感があるのですね。では今シーズンのコレクションについて教えて頂けますか?
毎シーズン根底にある美意識は変わらないので、今期もそういう意味で大きな狙いは一緒です。それは一言でいうと「失敗した真面目さ」のような感覚で、本人にとっては大真面目なんだけど、はたから見ていると度外れでクレイジーに見える、そういうものに愛着というか共感を覚えるんです。作り手としてそういうものを本気で作ろうと思っています。クールさはそこにあると感じています。
そんなブランドとしての美意識を根底に、今期のモチーフとしては90年代のブラット・ピットとグウィネス・パルトロウのカップルや、当時のITガール、クロエ・セヴィニー、そして当時のストリートスタイル、カジュアルスタイルにスポットを当てました。また、「PERRY ELLIS(ペリーエリス)」という90年代にマークジェイコブスがデザインしていたブランドの、今見ると少し古臭いモードというか、当時の何とも言えない垢抜けない雰囲気がとても魅力的に映りました。そこに全く異なるモチーフとして、1950-60年代のクラシックでエレガンスな雰囲気や、アメリカンフットボール等からインスパイアされたスポーツの要素を掛け合わせて新しいスタイルの創造を試みました。
また、今期はカラーパレットも重要で、デイヴィッド・ホックニーという画家が60-70年代頃、カリフォルニアで描いていた時代の色味を参考にしました。ネオンカラーやビビッドカラーなど派手な色が目につくことが多い昨今のトレンドですが、逆に彼の絵のような、パステルカラーのふわっとした牧歌的な優しい色に、ラディカルさや前衛さを感じたので、今回はあえて色味を抑えることで、逆に鋭くて強い表現ができるのではないか、というチャレンジをしています。対外的に明確なテーマというものはありませんが、僕は個人的に今期のテーマを「牧歌的ハイパーラディカルロマンティック」と呼び制作を続けていました(笑)
ー着眼点や組み合わせが面白いですね(笑)具体的に今シーズンの注目アイテムを教えて頂けますか?
まず注目して欲しいのは、コットンローンというオーソドックスな綿素材に小花柄をプリントした思いきり牧歌的な雰囲気の生地を用いて、スポーツという全く異なる要素を組み合わせて1つの服を作るということにチャレンジしたシリーズです。3本針ロックミシンを用いてスポーティーなラインで切り替えたり、縦にも横にも伸びるストレッチ素材(2WAYストレッチ)などを用いて、スポーツの要素を表現しています。
同時にクラッシックでエレガントな要素も拡張気味に加えました。
そうやって整合性を崩すことで新たなスタイルを生み出そうと展開していったシリーズです。
次に、アメフトのモチーフを組み合わせたチューリップ柄のシリーズにも注目して欲しいですね。こちらも牧歌的な雰囲気のチューリップ柄プリントを、モダールサテンという落ち感の美しい生地にのせました。そこにアメフトの防具の要素を組み合わせロマンティックにラディカルさを組み合わせました。
ただ、着地点としてはモード感と女性らしさを際立たせるように意識しながら作っています。華奢な雰囲気のキャミソールドレスですが、コルセット風にウエストにまかれたパッドが、実はアメフトという男性的で力強いモチーフがソースになっているところがユーモラスです。
またPUオーガンジーという、ポリウレタンコーティングを施したオーガンジー素材と、レースのレイヤードアイテムにもこだわりました。もやがかかったように透けて見えるレースが感覚的にとても美しいと思いました。
それらの持つ繊細さとの反発を狙って、スポーティーやストリートの要素を組み合わせています。
ー今後のブランドの展開・将来像について教えてください。
制作の面では、常日頃感じることや思うことをスタイルとしてより一層強く表現できるようになりたいと思っています。常に新しく、刺激的でありたいです。そして何より着る人が自分らしく、心地よく、強くなれるような服が作れるようになれたらと考えています。また、セールスの面では、よりお客様1人1人としっかりとコミュニケーションができる場を多くしていきたいと考えています。
●DESIGNER'S PROFILE
尾崎 俊介(Syunsuke Ozaki)
文化服装学院アパレルデザイン科卒。在学中より、TVCM用衣装を多数手がける。
卒業後はデザイナーズブランドや縫製工場などでキャリアを積む。
2012年 自身のブランド「jean genie & hungry freaks, daddy」をスタート
2014年 Tokyo新人デザイナーファッション大賞入賞